病院はどのような場合に診療を拒否できるか(受診拒否マニュアル)

  (解説)
医師法19条1項は「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な理由がなければこれを拒んではならない」と規定している。いわゆる医師の応招義務といわれているものである。
 この規定は、公的な義務を定めているものであって、患者が直接病院に診療請求権を有するものではないとされる。
これに反しても、罰則はないが、ときに行政処分、民事責任を問われることがあるとされている。
診療拒否の「正当な理由」の一般的な基準を設けることは難しいし、行政解釈も乏しく信頼性に欠けるところがある。医学的合理性と健全な社会通念によって決めるほかないといえる。
一般的な病院において、どのような場合に受診を拒否できるのか、現に入院中の患者について、どのような場合に退院を求めることができるのか、また救急患者、時間外の患者の受診に対して、どう扱えばいいのかなどを、マニュアルとしてまとめてみた。

Ⅰ、診察時間内における受診、入院について
1、治療費未払い患者
  ①支払い能力があるのに支払わない場合、受診を断る。
  ②支払い能力がなくて支払えない場合でも、医療が契約である以上、診療を拒否してもかまわないが、患者の事情をよく聞き、未払治療費の支払い方法などについて相談に乗り、柔軟に対処する。
  ③支払いをしない理由をよく確かめ、必要に応じて、生活保護などについてもアドバイスをする
  ④但しいずれの場合も、重篤な場合や応急の手当てが必要な場合は、診療は拒否できない。

2、医師・看護師らに対する暴力、暴言
  ①業務に支障を生じるような暴力・暴言の場合には、受診を拒否し、あるいは退院を勧告する。
  ②程度が著しくて、業務妨害や暴力、脅迫行為にあたるときは、院長から退院を命じる。警察に通報することも考慮する。
  ③医師に対し診療に関して不当なクレームをつけるような場合は、医師との信頼関係が維持できず、良好な医療ができないことを説明し、他を受診してもらうことを勧める。
  ④看護師等に対するセクハラ行為、暴力行為は、病棟師長、主任、事務長などに相談して、まず注意をしてもらう。それでもやまない場合は、受診を拒否したり、退院を勧告することもできる。程度がひどい場合は院長から退院を命じることもありうる。

3、飲酒
  ①飲酒しての受診は、原則として断っても差し支えない。飲酒時には正しい診断ができないことを説明し、飲酒していないときに受診してもらうように勧める。
   但し、重篤、緊急時には拒否できない。
  ②入院中の患者の飲酒は、原則として退院を命じる。

4、入院中の患者が、医師、看護師の指示に従わない、あるいは他の患者に迷惑行為を する。
  ①注意と説得を重ねても従わないようであれば、診療拒否の正当な理由になると考えられるから退院を勧める。応じないときは退院を命じることもある。
   但し病状によっては退院を 強制できない場合もある。
  ②これらの判断は、医師、看護師、事務のスタッフでよく協議して決める

5、医師や病院との間で現に医事紛争や、裁判が起きているとき。
   互いに信頼関係がなければ正しい治療ができず、かえって紛争を激化させたり、新たな紛争を生む恐れがあることを説明し、受診を断り、他院で治療を受けることを勧める。

6、入院中の患者で治療の必要がなくなった。あるいは、何度も受診しているが、病気でもなく治療の必要性もない
   ①慎重に判断したうえ、医学的に合理的な理由により明らかに治療が不必要な場合には受診を拒否することは差しつかえない。また、入院中の患者であれば退院を勧告し、あるいは退院を命じることもできる。
   治療の必要性がないとの判断は、複数の医師で相談して決めることがことが望ましい。
  ②治療の必要性がないことについては十分説明し説得する必要がある。

Ⅱ、時間外、夜間の救急患者の受診について

1、専門外
    ①救急患者の場合、当直医が専門外で治療できないと判断すれば、断っても差しつかえない。
    ②患者が、当直医が専門外であることを了承している場合は、診察に応じる。(カルテにはそのことを記載する)
    ③但し、重篤、緊急な場合は断れない。
   
2、空きベッドがないとき
  ①空きベッドがないことを告げて、診察と応急処置だけなら受け入れることができると告げ、受診を拒否しないことを原則とする。
  ②専門医を受診することを勧める。

3、飲酒・酩酊
  一概には断れないので、救急の場合は原則受け入れる。

4、治療中、処置中
  本当に余裕がなければ拒否するほかない。

5、問題のある患者
  Ⅰに準じる。